弊社(アプリスイート)が支援した AppSheet (アップシート) 導入事例の紹介です。この事例では、従業員約70名の機械器具・工具類の卸売業A社において、Salesforce解約に伴い新たに必要となった営業日報システムをAppSheetで構築しました。外出先からモバイルで入力できる営業日報に、全社員での情報閲覧機能、「いいね」「コメント」機能、メール通知機能を実装し、営業活動で得られる貴重な商品企画情報を効果的に活用できるシステムを1ヶ月で開発しました。
💡この事例のポイント💡
- 全社員での情報共有とコメント機能により営業日報の活用率100%を達成
- 必要最低限の機能に絞り込むことで1ヶ月の短期開発を成功させた
- 使いやすさを最優先にした結果、展開と浸透の両方を確実に実現
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目次
1. 事例概要
A社は機械器具・工具類を扱う卸売業で、代理店と連携して様々な業界のユーザーに商品を販売しています。営業担当者は代理店とともにユーザーを訪問し、カタログ営業を行っており、現場で得られる情報は自社の商品企画に重要な役割を果たしています。
事例概要
項目 | 内容 |
---|---|
業種 | 卸売業(機械器具・工具類) |
社員数 | 約70名 |
アプリ種別 | 営業日報 |
背景 | Salesforceを解約することになり、営業日報が新たに必要になった。営業が外出先でも入力できるように、モバイルでも使えるシステムが必要だった。 |
AppSheet でやりたいこと |
|
契約内容 | 開発委託プラン |
開発期間 | 1ヶ月 |
開発範囲 | 狭 ★☆☆ 広 |
開発難易度 | 低 ★★☆☆☆ 高 |
運用難易度 | 低 ★★☆☆☆ 高 |
2. AppSheet を選定した理由
A社では以前からSalesforceを営業日報システムとして活用していましたが、Salesforceを解約することになりました。新たな営業日報システムを検討する中で、解決が必要な課題が明確になっていました。
2-1. 既存システムの課題
Salesforce解約により、営業日報機能が完全に失われることが最大の課題でした。営業担当者は外出が多く、外出先からでも簡単に入力できるモバイル対応が必須条件となっていました。また、営業活動で得られる情報は商品企画に活用されるため、営業部門だけでなく全社員での情報共有が重要な要素として求められていました。
2-2. AppSheet 選定の決め手
マルチデバイス対応
AppSheet のマルチデバイス対応が魅力でした。営業担当者は外出先でもスマートフォンから簡単に日報を入力でき、それ以外の社員はデスクトップで快適に日報を閲覧できる環境を実現できることが重要な要件でした。外出の多い営業スタイルに完全に適合したシステムを構築できる点が、AppSheet選定の主要な理由となりました。
カスタマイズ機能
Salesforceは入力項目が多く使いこなすのが難しい課題がありましたが、AppSheetでは必要な機能に絞り込んだシンプルなシステムが構築できました。特に、Salesforceにはない機能として、情報共有のための「いいね」「コメント」「メール通知」機能の実装が可能で、営業日報を起点とした社内コミュニケーションの活性化が期待できることが選定理由となりました。
3. AppSheet でやりたかったこと
3-1. 営業日報の基本機能
A社の営業日報は、訪問先の詳細情報から活動内容、成果まで包括的に記録できるようになっています。
主な入力項目
- 基本情報:入力日、作成者
- 得意先・ユーザー情報:名称、業種、面談者
- 訪問詳細:訪問日、開始・終了時刻、訪問目的
- 活動内容:活動内容、活動結果、次の活動予定、写真、ファイル
- 営業活動:カタログ配布、提案内容
営業活動の質的・量的な評価が可能な仕組みになっており、営業担当者が日常業務で必要とする情報を効率的に記録できる構成となっています。

下書き・提出機能
担当者から「下書き機能が欲しい」との要望をいただき、日報のステータスにより公開・非公開を制御する仕組みを提案・実装しました。下書き状態では作成者のみが閲覧・編集でき、提出状態にすると公開されて社員全員が閲覧できるようになります。必須項目が未入力の場合は提出できない仕組みとし、情報の品質を確保しながらも、営業担当者が時間をかけて丁寧に日報を作成できる環境を整えました。

3-2. 情報共有とコミュニケーション機能
営業日報から得られる情報を全社で活用するため、提出済み日報の全社員閲覧機能を実装しました。営業部門以外の社員も日報を閲覧できることで、現場の生の声を商品企画に活かせる体制を構築しています。
コミュニケーション機能では、「いいね」「スマイル」「残念」「がんばろう」の4種類のスタンプ機能により、日報に対する簡単なリアクションができるようになりました。さらに、日報へのコメント機能とコメントへの返信機能により、日報を起点とした業務コミュニケーションが活性化されています。


日報編集時およびコメント編集時には情報の履歴管理のため「編集済み」表示と変更時刻が自動記録され、編集ログも保存されているため編集前の内容も参照可能になっています。自分の日報への新着コメントには「!」マーク表示による通知機能も実装し、重要なコミュニケーションを見逃さない仕組みを整えました。

3-3. 技術的な工夫点
自動入力とマスタデータ連携
営業担当者の入力負荷を軽減するため、日報入力フォームで自動入力や自動選択ができるようにしました。マスタデータの構造に合わせて、階層型ドロップダウンの仕組みを実装し、上位項目を選択すると関連する下位項目の選択リストが絞り込まれる機能を構築しました。これらの自動入力機能により、営業担当者は必要最小限の項目入力で効率的に日報を作成できるようになりました。

メール通知システム
AppSheet のAutomation機能を活用し、日報にコメントが投稿された際に作成者へ自動メール通知を実装しました。通知メールにはコメントした日報の基本情報として訪問日や得意先情報が含まれ、コメント投稿者の名前とコメント内容も併せて表示されます。さらに、アプリのディープリンクも埋め込まれており、クリックするとコメント詳細画面に直接移動できる仕組みになっています。
特に技術的な特徴として、Gmailの Dynamic email 機能を活用した実装を行いました。Gmailで通知メールを開くと、メール内にアプリの画面(ビュー)が表示され、アプリを起動することなくメール上で直接「いいね」ボタンをクリックできます。この機能により、営業担当者は外出先でもメールを確認するだけで迅速にリアクションでき、コミュニケーションの活性化と業務効率の向上を実現しています。

3-4. 開発委託プランの進行、リリースまでのプロセス
この事例では、実質的な開発期間として、PoC終了後からテストリリース前までの1ヶ月と、テストリリースから本番リリースまでの1ヶ月の合計2ヶ月で完了しました。
フェーズ | 内容 | 期間 |
---|---|---|
初回打ち合わせ | 聞き取り内容からMVPを開発 | - |
PoC実施 | 打ち合わせでMVPのデモと解説、アプリ仕様確認 | 1ヶ月 |
継続開発 | 資料提供後、改善サイクルを2回実施 (MVP試用 → 改善要望リスト記入 → 改修 → デモ解説 → 再試用) |
|
テストリリース |
|
1ヶ月 |
本番リリース | 運用マニュアルの解説 |
開発プロセスの特徴
このプロジェクトでは、お客様との密な連携により効率的な開発を実現しました。初回打ち合わせでの聞き取り内容を基にしたMVP開発から始まり、PoCでアプリの基本仕様を確認した後、継続開発期間中に改善サイクルを2回実施しました。この反復的なアプローチにより、現場の実際の使用感を踏まえた改善を継続的に行い、お客様の業務に完全に適合したシステムを短期間で構築することができました。
テストリリース期間では、実際の運用環境での不具合修正と移行計画の策定を並行して進め、スムーズな本番リリースを実現しています。
4. 導入効果
4-1. アプリでできるようになったこと
業務効率化と情報共有の向上
従来のSalesforceと比較して、営業担当者の入力負担が大幅に軽減されました。これは実際に使用する入力項目を必要最小限に絞り込み、A社の営業活動で共有したい情報に合わせてカスタマイズしたことが主な要因です。自動入力機能や下書き機能により、営業担当者はより効率的に日報を作成できるようになりました。
また、従来の基本的な閲覧機能から、「いいね」「コメント」「返信」機能を備えた双方向のコミュニケーションが可能になったことで、営業活動で得られる現場情報を商品企画により効果的に活用できる体制が整いました。コメント投稿時の自動メール通知により、重要な情報交換を見逃すことなく、迅速な情報共有が実現されています。
利用率100%を達成、日常業務に浸透
本番リリース後2ヶ月間の利用実績では、営業担当者25名が利用率100%を達成し、営業以外の社員についても58名が積極的に利用しています。社員数70名弱の会社で役員は使用対象外のため、実質的にほぼ100%の利用率を達成している状況です。
浸透度についても非常に高い成果を示しており、2ヶ月間の集計値は、新規日報数は774件(営業社員1人あたり31件)、既読スタンプ数は17,884件(日報1件あたり23件)、コメント数は250件(月平均120件)となっています。これらの数値から、営業日報アプリが単なる報告ツールではなく、社内コミュニケーションを活性化させる重要なプラットフォームとして機能していることが確認できます。
4-2. 事例から得られた学び
機能を絞り込むことで短期間でのリリースを実現
この事例では、一般的な営業日報とは異なるユニークな仕様のアプリを開発しました。A社独自の活用方法として、全社員で日報を閲覧し商品企画のネタとして活用するという明確な目的があり、この会社独自の活用方法を踏まえたカスタマイズがこのアプリの特徴となっています。
成功要因として最も重要だったのは、必要最低限の機能に絞り込み、現場で問題なく運用できる使いやすいアプリに仕上げたことでした。Salesforceの解約日に合わせてAppSheetに移行することが決まっており、2ヶ月で開発、テスト、リリースするという厳格なスケジュールが設定されていたため、欲張らずに最低限必要な機能に絞り込むことでスケジュール内での完了を実現できました。
展開と浸透のポイント:難易度を抑えて使いやすいアプリに
下書き機能、4種類のスタンプによるリアクション機能、コメント返信機能など、このアプリの特徴的な機能については、工夫は必要でしたが開発難易度はそれほど高くありませんでした。機能的な難易度を抑えたことにより、現場の運用難易度も高くならず、使いやすいアプリに仕上がったことが重要でした。そのおかげで、テストリリース後の展開も無理なく進めることができ、実際に使用する営業担当者にとっても、日報を閲覧するその他の社員にとっても、難しくない使いやすいアプリにすることで、展開(利用率100%)と浸透(日常業務の一部)の両方を達成することができました。