AppSheet Enterprise Plus は、大規模で高度なアプリ開発に対応する最上位ライセンスです。本ブログ記事では、技術検証に基づき、Enterprise Plus ライセンスの主要機能について詳しく解説します。クラウドデータベース接続、Google グループによるアクセス制御、高度な監査履歴、組織やチーム単位でのポリシー適用など、AppSheet Core ライセンスにはない機能の活用方法を具体的に紹介します。なお、この記事では設定手順の解説は行いませんので、詳細な手順はAppSheet ヘルプを参照してください。
目次
1. AppSheet Enterprise Plus ライセンスとは
AppSheet Enterprise Plus ライセンスの概要
AppSheet Enterprise Plus は、AppSheetの最上位ライセンスプランで、大規模で高度なアプリ開発ニーズに対応できる機能を提供します。
2024年6月に、AppSheet Enterprise Standard ライセンスがEnterprise Plus ライセンスに統合、再編されるとともに、価格体系も改定されたことが発表されました(→ こちら)。この改定により、従来の年契約・最低20ユーザーという制限がなくなり、中小企業や小規模事業者でも必要に応じてライセンスを購入しやすくなり、AppSheet Enterprise Plusライセンスの機能を活用して、より高度なアプリ開発、セキュリティガバナンス、管理ができるようになりました。
AppSheet Enterprise Plus ライセンスの主な特徴は以下の通りです。
- 高度なデータソースの使用:複数の高度なデータソースを統合し、クラウドデータベースなど、大規模データを使用したアプリケーション開発を可能にします。
- 高度な認証オプション:Active Directory、Oktaなど、企業の既存の認証システムと統合し、セキュリティを強化しつつユーザー管理を簡素化します。
- 詳細な管理・モニタリングツール:アプリのアクティビティを詳細に追跡し、問題の早期発見や最適化が可能です。また、ポリシーの設定により、組織やチームでのアプリ開発管理が容易になります。
- チームコラボレーション機能:データソースや統合を共有し、チームでのアプリ開発や管理を効率化、協調して作業を進めることができます。
ライセンスの購入方法
2024年6月17日より、AppSheet Enterprise Plusは Google Workspace 管理コンソールから直接購入できるようになりました。これにより、Google Workspace 管理者が直接ライセンスを調達できるようになります。購入にはGoogle Workspace 管理者権限と、ドメイン所有権証明済みの必要があります。
購入手順は以下の通りです。
- Google Workspace管理者アカウントでログイン
- 管理コンソールで「お支払い」メニューの「その他のサービスを利用する」を選択
- 「Google Workspaceアドオン」をクリックし、AppSheet Enterprise Plusを表示
- AppSheet Enterprise Plusをクリックして購入手続きに進む
AppSheet Enterprise Plusの価格体系
AppSheet Enterprise Plus ライセンスには、フレキシブル プランと年間 / 定期プランの2種類があります(価格は、2024年8月現在)。
プラン | フレキシブル プラン | 年間 / 定期プラン |
---|---|---|
概要 |
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|
価格 | ユーザーあたり月額2,496円 | ユーザーあたり年額24,960円(月額2,080円) |
2.AppSheet Enterprise Plus ライセンスを検討する
AppSheet 導入の3つのアプローチ
Googleによると、組織内の体制やアプリ開発の権限委譲の度合いにより、AppSheetの開発体制は以下の3つに分類されます。
(出所)"AppSheet: The no-code revolution powered by AI", Google Cloud Next '24, 2024/04/11.
各アプローチのアプリ開発体制とアプリ作成者は、以下のように考えられます。
アプローチ | 集中型開発 | ハイブリッド型開発 | 市民開発 |
---|---|---|---|
アプリ開発体制 | ごく少数のアプリ作成者が組織全体のアプリ開発を担う | 各部門で、それぞれの業務に特化したアプリを開発し、使用する | 組織内のすべてのユーザーが、各自の課題解決のためにアプリを開発する |
アプリ作成者 | 情シス担当者や業務担当者など、1名〜若干名 | 部門内の業務担当者など、若干名またはチーム | 部門を問わず、誰でも |
(出所)筆者作成
3つのアプローチでライセンスの重要度を検討する
社内のアプリ開発体制とアプリ作成者が誰なのかによって、AppSheet Enterprise Plus ライセンスの重要度が変わります。各アプローチにおけるAppSheet Enterprise Plusライセンスの重要度を検討してみましょう。各アプローチにおけるライセンスの重要度は、以下のようになると考えられます。
アプローチ | 集中型開発 | ハイブリッド型開発 | 市民開発 |
---|---|---|---|
重要度 | Low | Middle | Hi |
検討する価値はあるが、ライセンスの重要度は低い | 機能によっては重要度が高いので、前向きに導入を検討する | ライセンスの重要度が高く、導入は必須 |
(出所)筆者作成
3つのアプローチについて、AppSheet Enterprise Plus ライセンスの5つの特徴、高度なデータソース、認証オプション、詳細な管理・モニタリングツール、ガバナンスポリシー、コラボレーション機能について分析してみます。
集中型開発 重要度:Low
集中型開発では、ごく少数のアプリ作成者が開発を担当するため、Enterprise Plusライセンスの重要度は低くなります。
データソース | テーブルあたり10万行を超えるような大規模データを使用する場合は、クラウドデータベースなど高度なデータソースへの接続が必要になる可能性がありますが、セキュリティフィルタを使用して読み込むデータ量を節約するなど、Googleスプレッドシートで対応できる場合も多いです。 |
---|---|
認証オプション | 組織全体で使用するアプリの場合は、高度な認証オプションの必要性は低いです。 |
管理・モニタリングツール | 少数の開発者で品質管理やセキュリティ対策が実施しやすいため、高度な管理・モニタリング機能の必要性は低いです。 |
ガバナンスポリシー | 情シス担当者や代表者がセキュリティを担当するため、組織やチームでポリシーを設定する必要性は低いです。 |
コラボレーション | 開発者が少数のため、高度なチームコラボレーション機能の必要性は低いです。 |
ハイブリッド型型開発 重要度:Middle
ハイブリッド型開発では、部門ごとの開発と管理が中心となりますが、組織全体での一定の管理も必要となるため、Enterprise Plusライセンスの重要度は中程度となります。
データソース | 大規模データを使用したり、部門ごとに異なるデータソースを使用する可能性があるため、Enterprise Plusの高度なデータ連携機能が有用になります。 |
---|---|
認証オプション | Googleグループなど、部門ごとに異なる認証要件がある場合、Enterprise Plusの柔軟な認証オプションで安全かつ効率的にユーザーアクセスを制御できます。 |
管理・モニタリングツール | 複数の部門がチームとしてアプリ開発をする場合、Enterprise Plusの高度な管理・モニタリング機能が必要になります。 |
ガバナンスポリシー | 部門ごとの自由度を保ちつつ、最低限のガバナンスを確保するため、Enterprise Plusの組織・チームポリシー設定機能が有用です。 |
コラボレーション | サンプルアプリ、データソース、外部リソースを共有することで、開発効率を上げることができます。 |
市民開発 重要度:Hi
市民開発では、多数のユーザーが自由にアプリを開発するため、組織全体での管理とガバナンスが重要になります。そのため、Enterprise Plusライセンスの重要度は高くなります。
データソース | 多様なユーザーが様々なデータソースを使用する可能性が高いため、Enterprise Plusの高度なデータ連携機能が重要になります。 |
---|---|
認証オプション | 多数のユーザーが関与するため、Active DirectoryやOktaなどの高度な認証オプションが必要になる可能性があります。Google Workspace 契約者は、Googleグループを使用して、ユーザーアクセスを安全かつ効率的に制御できます。 |
管理・モニタリングツール | 組織やチームのアプリ作成者の詳細、アプリのステータスや使用状況を常にモニタリングする必要があります。また、アプリ作成者の所属部門が多岐にわたるため、組織とチームで階層的にアプリ作成者を管理する必要があります。 |
ガバナンスポリシー | 組織やチームでポリシーを策定し、ポリシーに準拠した安全なアプリを作成する必要があります。Enterprise Plusの組織・チームポリシー設定機能は必須と言えます。 |
コラボレーション | 多数のアプリ作成者間でのリソース共有や協業を効率的に行うために、Enterprise Plusのチームコラボレーション機能が有用です。 |
以上のように、AppSheetの導入アプローチによってEnterprise Plusライセンスの重要度は異なります。組織の規模、開発体制、セキュリティ要件などを考慮し、適切なライセンスを選択することが重要です。また、Enterprise Plusの機能を最大限に活用することで、効率的かつ安全なアプリ開発環境を構築できます。
3.AppSheet Enterprise Plus ライセンスでできること
クラウドデータベースと接続してアプリを作成できる
AppSheetで、Googleスプレッドシートをデータソースとして使用する場合、いくつかの制限があります。
- 行数制限:Googleスプレッドシートのデータは、最大100,000行までしかサポートしていません。
- データサイズ制限:アプリ全体で、圧縮後のデータサイズが5MB〜10MB以下である必要があります(画像やファイルなどの外部データはこの制限の対象外です)。
これらの制限を超えると、アプリに以下のような影響が出る可能性があります。
- アプリの開発、更新時に処理が遅くなります。
- アプリ使用時に、デバイスとバックエンド間のデータ同期に時間がかかるようになります。また、スクロールや検索などのアプリ操作が重くなり、UXが大幅に低下します。
- 極端な場合、アプリが開かなくなったり、操作中にフリーズしたりする可能性があります。
AppSheet Enterprise Plus ライセンスを使用することで、Googleスプレッドシートでは扱えない大規模データソースと接続することが可能になります。このライセンスで接続できる主なクラウドデータベースには以下のようなものがあります。
- MySQL
- PostgreSQL
- Microsoft SQL Server
- Google Cloud BIgQuery
- Oracle
- AWS DynamoDB
- MariaDB
他に、Salesforceもデータソースとして使用することができます。これらのデータベースを使用することで、Googleスプレッドシートの100,000行という制限を超えて、より大規模なデータセットを扱うことが可能になります。
ここでは、Google Cloud SQLにMySQLインスタンスを作成して、AppSheetと連携してみました(設定手順 → こちら)。My Accountにある「+ New Data Source」をクリックするとコネクタが表示されるので、必要な情報を設定して接続します。
無事に接続できると、Account Sources に追加されます。
MySQLに作成したデータベースをデータソースとして、アプリを作成してみました。プロトタイプ(Not Deployed)なら、AppSheet Core ライセンスでもアプリ作成ができますが、デプロイができません。
Plan requirements を調べると、AppSheet Coreは「Not Allowed」になっており、デプロイするためにはEnterprise ライセンス(Allowed)が必要であることが分かります。
AppSheet Enterprise Plus ライセンス割当済みユーザーがアプリ作成者(オーナー)の場合は、問題なくデプロイできました。
アプリ共有についても調べてみました。アプリ作成者(オーナー)とユーザーに以下のライセンスを割り当てた状態で、Share appからアプリを共有してみました。
- アプリ作成者(オーナー):AppSheet Enterprise Plus
- ユーザー(使用のみ):AppSheet Core
ユーザーは、AppSheet Enterprise Plusライセンスを割り当てていなくてもアプリを共有できて、使用もできました。クラウドデータベースのように、AppSheet Enterprise Plus ライセンスが必要な機能を使用する場合でも、アプリを使用するだけのユーザーなら、Enterprise Plus ライセンスは必要ありません。つまり、
- アプリの作成とデプロイ
- 高度なデータソース(クラウドデータベースなど)を使用するアプリを作成し、デプロイするには、AppSheet Enterprise Plusライセンスが必要である
- アプリの共有と使用
- 一度デプロイされたアプリは、AppSheet Enterprise Plusライセンスを持っていないユーザーとも共有でき、そのようなユーザーも使用できる
AppSheet Enterprise Plus ライセンスを割り当てられているユーザーがアプリを作成・デプロイする限り、そのアプリを他のユーザー(AppSheet Enterprise Plusライセンスを持っていない人も含む)と共有し、使用させることができます。この点は、Googleのサポートスタッフにも確認し、ライセンス条項に違反しないことを確認しました(2024/8/19)。
Googleグループを使用してユーザーアクセスを制御できる
AppSheet Enterprise Plusライセンスでは、Google認証に加えて、他の認証システムと連携してユーザーのAppSheetアプリへのアクセスを制御できます。例えば、Active Directory、Okta、AWS Cognito、OpenID Connectなどの認証システムをオプションとして選択できます。
Google Workspaceユーザーならば、Googleグループとの連携は強力な機能です。AppSheetとGoogleグループを統合することで、認証されたユーザーのGoogleグループメンバーシップに基づいてアプリへのアクセスを制御できます。Googleグループとの連携には、以下のようなメリットがあります。
- 集中管理:既存のGoogleグループを利用してアクセス権限を管理できるため、別途AppSheet用の権限管理を行う必要がありません。
- 動的なアクセス制御:Googleグループのメンバーシップの変更が即座にAppSheetのアクセス権限に反映されます。
- きめ細かな権限設定:異なるGoogleグループに異なるアクセスレベル(ユーザー、管理者など)を割り当てることができます。
この機能により、大規模な組織でも効率的かつセキュアなアプリケーション管理が可能になります。
ここでは、GoogleグループをAppSheetに統合して、Googleグループによるアプリへのアクセス制御をやってみました(設定手順 → こちら)。My Accountにある「+ New Auth Domain」から、連携したい認証システムを追加できます。
Googleグループを認証システムとして追加する場合は、「Google Cloud」をクリックします。
自分のGoogleアカウントでユーザー認証が成功すれば、Auth Domains に追加されます。
Googleグループによるユーザーアクセスは、アプリ単位で設定します。Domain Authentication で、Require domain authentication?をONにして有効にして、Auth Domainsに追加した認証ドメイン(Google)を選択して、設定していきます。
アクセスを許可するGoogleグループを追加します。
Googleグループのメンバーは、アプリにアクセスして使用できます。メンバーから削除されると、アプリにはアクセスできなくなります。Google Workspace の管理コンソールから一元管理できるようになります。
Googleグループを使用したユーザーアクセス制御は、通常のアプリ共有(Share app)よりも優先されます。Share app にメールアドレスを追加する必要はありません。
また、Googleグループを使用して、チーム内でアプリ作成できるユーザーを制限することができます(設定手順 → こちら)。Google Workspaceでドメイン所有権証明済なら、デフォルトでは誰でもアプリ作成できる状態です。アプリ作成を許可するメンバーのGoogleグループを作成して、AppSheetと統合すれば、不適切なアプリ作成やデータアクセスのリスクを軽減し、セキュリティを強化できます。
追加した認証システムを「Make team default」にします。
My Team の App Creator Restrictions で、アプリ作成を許可するメンバーグループを選択して、「Save」すると、そのGoogleグループメンバーのみアプリ作成ができるように制限できます。
機械学習モデルを使用してOCRができる
AppSheet Enterprise Plusでは、機械学習モデルを活用したOCR機能が利用できます(設定手順 → こちら)。この機能では、画像データから印刷テキストや手書き文字を認識し、自動的にアプリのフォームに入力することができます。
対応しているのは固定レイアウトの文書で、例えば、
- 1種類の固定レイアウトの紙のフォーム
- 特定社の配送ラベル
- 標準化された(自社様式などの)請求書等の帳票類
などです。名刺や複数社のレシートなど、自由なレイアウトの文書や、チェックボックスを使用するフォームには対応していません。
手順は、カスタムOCRモデルを作成します。サンプル画像(4〜10枚)を使用してモデルをトレーニングします。トレーニング結果は、画像で確認することができます。
自社様式のフォームや帳票など、固定レイアウトの場合は、データ入力の効率化と人的ミスの削減が期待できるかもしれません。OCR機能はベータ版なので、完全な精度は保証されておらず、手動での確認と修正が必要な場合があります。適切な使用と結果の検証を行い、慎重に導入を検討することをオススメします。
今回は、特定のガソリンスタンドのレシートをサンプルデータとして、給油量と支払金額をOCRで読み取りするカスタムOCRモデルを作成してみました。アプリでレシートを撮影し、給油量と支払金額を入力しておきます。これが、モデルの教師データになります。
Intelligence から、カスタムOCRモデルを作成します。教師データになる画像列(Image Column)と結果列(Output Columns)を指定します。「Save」するとトレーニングが開始されます。
トレーニングが終了すると、Patterns の画像で結果を確認できます。
アプリでレシートを撮影すると、OCRができます。給油量は、数値以外の「L」まで読み取ったり、支払金額も、金額以外の「¥」まで読み取ってしまうので、それほど簡単にはいかないようです。
今回のアプリでは、読み取り用の列と入力用の列を分けて、入力用の列でSUBSTITUTE関数を使用して、余分な文字を削除するなどの工夫をしています。
Audit History(監査履歴)でアクティビティを細かく追跡できる
AppSheet Enterprise Plusライセンスでは、Audit History(監査履歴)でアプリやユーザーのアクティビティを細かく追跡できるようになります(設定手順 → こちら)。主に、以下の機能を使用できます。
- 高度なフィルタ機能
- Audit History(監査履歴)では、詳細なフィルタ機能を使用できます。同期、追加、更新、削除、Automation、API呼び出しなどの操作タイプや、日付範囲、テーブル名、ユーザーIDなどでログをフィルタリングできます。これにより、特定のアクティビティや期間に焦点を当てた分析が可能になり、効率的なトラブルシューティングや監査が行えます。
- エラーアラート通知
- Audit History(監査履歴)にアプリ機能全体に影響を与える重大なエラー(同期が完了せずにアプリがスタックするようなエラー)が記録された時に、メール通知を受け取ることができます。通知には、エラーメッセージ、ログのURL、操作タイプ、アプリケーションのURLなどの詳細情報が含まれます。これにより、問題をリアルタイムで把握し、迅速に対応することが可能になります。
- ユーザーごとの変更履歴監査
- Audit History(監査履歴)を使用して、ユーザーごとの変更履歴を詳細に監査できます。各レコードの追加、更新、削除を実行したユーザーを特定できるため、トラブルシューティングとセキュリティの強化が図れます。
- BigQueryへのエクスポートと長期分析
- チームの Audit History(監査履歴)ログをBigQueryにエクスポートできるため、長期的なデータ保持と高度な分析が可能になります。
- 使用状況サマリーメール
- 週1回、AppSheetから自動的にアプリの使用状況サマリーメールを受け取ることができます。このメールには、デプロイ可能な全アプリの使用統計情報が含まれ、各アプリの補足情報へのリンクも提供されます。
Audit History(監査履歴)では、AppSheet Core ライセンスではグレーアウトして使えなかったフィルタリング機能が使えるようになります。
Only Display Failures?をONにして、「Search」をクリックすると、エラーのみフィルタリングできます。
UserIdを指定して、特定ユーザーのアクティビティのみをフィルタリングすることで、効率的なトラブルシューティングができます。
チームのAudit History(監査履歴)をBigQueryにエクスポートできます(設定手順 → こちら)。手順通りにやれば、BigQueryに自動でテーブルが構成されます。これにより、ほぼ永続的にログを残すことができるようになります。
リソースをチームで共有できる
AppSheet Enterprise Plusでは、チーム全体でリソースを共有することができます。これにより、開発効率の向上、一貫性の確保、セキュリティの強化が可能になります。主要な共有可能リソースには以下のものがあります。
- サンプルアプリ
- チーム全体で利用できるサンプルアプリを共有できます。開発時間の短縮が可能となり、検証済みのデザインパターンを活用することで品質の向上、チーム内でのスキル向上、知識の共有ができます。
- データソース
- Google カレンダーやクラウドデータベース(MySQLなど)への接続設定を共有することで、チーム全体が同じデータソースを利用できるようになります。接続情報を一元管理することでセキュリティが向上し、データソースの設定時間を削減できるため、開発を効率化できます。
- 認証システム
- 認証システム(Active DirecroryやOktaなど)との連携を共有できます。Googleグループとの連携も、チーム全体で同じ認証設定を共有できます。ユーザーのアクセス権を一元管理できるため、アクセス管理が簡素化でき、一貫した認証ポリシーを適用できるためセキュリティが強化されます。
- クラウドオブジェクトストア
- Google Cloud Storageにアプリ内の画像やファイルを保存・共有し、チーム全体で同じストレージ設定を利用できます。
これらのリソース共有機能により、AppSheet Enterprise Plusは大規模なチームでのアプリ開発と運用を効率化し、一貫性とセキュリティを確保します。チーム全体でリソースを共有することで、個々の開発者の生産性が向上するだけでなく、組織全体としてのアプリ開発能力も大幅に強化されます。
サンプルアプリは、AppSheet Enterprise Plus ライセンスを割り当てていないユーザーでも共有できます(設定手順 → こちら)。My Team の Add a team sample からチームで共有したいアプリを選択するだけです。
データソースのチーム共有は、My Account の Account Sources に追加済みのソースで「Share with my team」を選択して共有します(設定手順 → こちら)。AppSheet Enterprise Plus ライセンスを割り当てていないユーザーのデータソースはチーム共有できません。
Googleカレンダーも同じ方法でチームと共有できます。この場合、Googleカレンダー側で共有設定する必要はありません。
Googleグループなど、AppSheetに統合済み認証システムもチームで共有できます(設定手順 → こちら)。My Account の Auth Domainsに統合済みの認証システムで、「Share with team」を選択して共有します。
ポリシーを組織やチームに適用できる
AppSheet Enterprise Plusライセンスでは、組織やチーム全体にポリシーを適用できます。これにより、大規模な組織や複数のチームを持つ企業は、アプリ開発とデータ管理に関するセキュリティガバナンスとコンプライアンスの遵守を効率化できます。
AppSheet Coreライセンスで設定できるポリシーは、個人レベル(アカウント単位)のみでした。Enterprise Plusライセンスでは、以下のレベルでポリシーを設定し、適用できます。
- 組織レベル:組織全体に適用されるポリシー
- チームレベル:特定のチームに適用されるポリシー
- 個人レベル:個々のユーザーアカウントに適用されるポリシー
この階層的なアプローチにより、組織は全体的な基準を設定しつつ、チームや個人のニーズに応じた柔軟性も提供できます。
AppSheet Enterprise Plusのポリシー機能により、組織全体で一貫したアプリ開発基準を維持し、品質や生産性が向上します。また、データアクセスや認証方法を細かく制御することで、セキュリティリスクを軽減し、組織の情報資産を保護します。社内ポリシーへの準拠を確実にすることで、コンプライアンスを遵守します。
事前定義ポリシーを活用すれば、効率的にポリシーを構成し、迅速に導入できます。これらのポリシーは、一般的なユースケースに対応しています。主な事前定義ポリシーには以下のようなものがあります。
- Only users from specific domain:特定のドメインのユーザーのみがアプリにアクセスできるようにします。
- Require sign-in:ユーザーがアプリにアクセスする際にサインインを必須にします。
- Restrict app sharing:アプリ共有できるドメインと人数を制限します。
- Restrict who can deploy apps:アプリのデプロイを特定のアプリ作成者に制限します。
事前定義ポリシーは、カスタムポリシーを作成する際の出発点としても活用できます。
今回は事前定義ポリシーをいくつか追加して、設定してみました(設定手順 → こちら)。AppSheet Core ライセンスでは、Policies の Team は無効なので何も操作できません。AppSheet Enterprise Plus ライセンス割当済みユーザーは、Team が有効になり、「+ Team policy」からポリシーを追加できます。
事前定義ポリシーの「Must sync-on-start」を追加して、設定してみました。このポリシーには、Condition に以下の式が設定されており、アプリを開いたときにデータ同期する設定です。
- [SyncOnStart] = true
Severity が「Warning」の場合、ポリシー違反の設定(Settings で Sync on start を OFF にして無効)にすると、警告アイコンが表示され、Failure Message に設定したメッセージが表示されます。
Severity が「Error」の場合、ポリシー違反の設定にすると、強制的にポリシー準拠(Sync on start が ON)の設定に戻されて、以下のようなメッセージが表示されます。
Stageの設定も重要です。大半の事前定義ポリシーはデフォルトで「Enforce always」になっており、アプリ設定がポリシーに準拠しているか常にチェックされます。一部のポリシーについては、デプロイ時にポリシー違反をチェックする「Check on Deployment」が適している場合があるので、必要に応じて設定を変更します。
ポリシー設定パネル右側のペインで、チーム内のアプリがポリシーに準拠しているかチェックできるプレビューが表示されます。非準拠のアプリは「Non-compliant」、準拠しているアプリは「Compliant」に一覧表示されます。
4.AppSheet Enterprise Plus ライセンスの利用計画
AppSheet Enterprise Plus ライセンスは、効果的に割り当てることで、コスト効率を最大化しながら高度な機能を組織全体で活用できます。基本的に以下の役割を担うユーザーにライセンスを割り当てます。
役割 | 利用目的 | 使用できる機能 |
---|---|---|
アプリ作成者 | 高度なデータソースを使用するアプリを作成し、デプロイするユーザー |
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管理者 | 組織またはチームのAppSheet環境を管理し、監視するユーザー |
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ユーザー1人につき割り当てられるライセンスは1つです。AppSheet Enterprise Plus ライセンスを割り当てたユーザーは、アプリ作成者と管理者を兼務できます。したがって、
必要なライセンス数 = アプリ作成者の人数 + 管理者の人数 − 兼務している人数
この考え方により、組織内で効率的にライセンスを割り当てることができます。1つのライセンスでアプリ作成者と管理者の役割を兼務でき、アプリを使用するだけのユーザーはライセンスが不要なので、組織全体でライセンス数を最適化し、AppSheetの高度な機能を最大限に活用できます。
以上、AppSheet Enterprise Plus ライセンスは、セキュリティとガバナンスを確保しつつ、アプリ開発を促進するための強力なツールとなります。組織の規模、開発体制、セキュリティ要件を考慮し、AppSheet Enterprise Plus ライセンスの導入を検討することで、効率的かつ安全なアプリ開発環境を構築できるようになります。