Google が提供するノーコード開発プラットフォーム「 AppSheet (アップシート)」の基礎的な解説シリーズです。
AppSheetは、さまざまな業界や用途で活用されています。第3回は、 設備保全管理 における活用事例を紹介します。
この記事は、これから情報を集めて検討しようとしている企業の担当者様向けに、初歩から解説しています。
現場主導の業務改善、ノーコード開発、Google Workspaceと連携したデータ活用やDX推進に関心がある方は、是非参考にしてください。
1. 紙の点検表とエクセルによる 設備保全管理
工場において、設備や機械の使用前点検、定期点検や不具合発生時の保全は欠かせない業務です。この設備保全業務を自社で行う場合、紙の点検表とエクセルでデータ管理していることが多いようです。しかし、複数の事業所で多くの設備を管理する場合には、紙とエクセルによる業務は非効率です。AppSheetで点検表をデジタル化することで、設備保全業務の効率化が期待できます。
紙の点検表とエクセルによる設備保全管理の作業手順は一般的に以下のようになります。
- エクセルで点検表を作成する
- 現場で点検結果を紙に記入する
- 事務所で紙からエクセルに転記する
事業所が1ヶ所しかなく、所有している設備の点数が少なければ、多少の手間はかかりますが、業務に支障はないでしょう。しかし、紙とエクセルによる点検表には、以下のようなデメリットがあると考えられます。
作成と転記の手間
設備によって点検項目が異なるため、機械設備が多ければ多いほど、たくさんの点検表をエクセルで作成して印刷したり、転記に多くの時間がかかるようになります。
リアルタイムにデータを共有できない
事業所が複数あり、各所で点検表を作成している場合は、点検結果の最新情報を横断的に一覧することができません。
点検業務と保全業務のデータを連携できない
紙の点検表の場合、不具合が見つかった時にメモ欄に記録することはできますが、不具合箇所のその後の経過や修理交換記録は別の台帳に記録している場合があります。
以上のことから、紙の点検表からエクセルに転記する手間だけでなく、点検結果の一覧性の問題や、点検結果に関連する保全業務の追跡ができないという問題があることが分かります。
2. AppSheet で点検表をデジタル化する
AppSheetで紙の点検表をデジタル化すると、以下のようなメリットがあります。
点検業務の効率化
現場でスマホやタブレットを使って、点検結果を直接入力できるため、紙の点検表を作成して印刷したり、後で転記したりする手間が省けます。
点検結果の最新情報を一覧
アプリを共有して使用するため、複数の事業所で点検結果の最新情報を一覧することができます。事業所、設備、点検者別に、関連する点検表を表示することも可能です。
写真管理
点検中に不具合箇所の写真を撮影し、点検記録と関連付けて保存できます。写真にメモやタグを付けることもできるので、写真管理も容易になります。不具合発生時に写真を添付して報告すれば、設備管理者はアプリで状況を確認して、遠隔でも指示を出せます。
AppSheetはGmailと統合されており、dynamic emailという機能が使えます。アプリからメールを送信し、Gmailで開くとアプリのビュー(画面)が表示されて、操作もできます。dynamic emailを使えば、アプリから作業完了報告を自動化したり、不具合発生時に写真付きで報告して管理者の指示を仰ぐ、というような使い方ができます。
業務間のデータ連携
点検記録に不具合報告や修理記録を関連付けて、その後の保全業務のデータを追跡できます。不具合箇所の処置をステータス管理すれば、設備の最新状態を把握できます。
また、自社で修理する場合は、保守部品の在庫表と連携することで、在庫確認や発注点管理による在庫切れを防ぐこともできます。
3. 設備点検アプリの設計
AppSheetによる設備点検アプリの設計は、以下のようになります。
- 設備マスタと点検者マスタを用意し、点検表を中心として不具合報告と修理記録を関連付ける。
- 不具合報告と修理記録にそれぞれ写真を関連付けて保存できるようにする。
事業所が複数あり、各事業所内でエクセルで点検表を作成している場合は、点検項目の分類や名称がバラバラになりがちです。特に、点検項目の分類方法については、設備により階層数が、
- 点検内容だけの1階層
- 点検箇所と点検内容の2階層
- 機器名、点検箇所と点検内容の3階層
のようにバラバラだと、開発工数を増やす原因になります。そのため、点検項目の階層数や名称は統一するようにします。
同様に、設備ごとに点検結果の記録も、
- ○、△、×
- 良、やや悪い、不良
- 正常、摩耗、不完全、破損
のようにバラバラになりがちです。こちらも開発工数を増やす原因となり、点検結果の一覧性にも差し支えるため、できるだけ統一しておくようにします。
4. AppSheet の導入効果
AppSheetを活用することで、以下のような効果が期待できます。
紙による事務処理のデジタル化による業務の改善
従来の設備保全管理では、点検表を紙で作成し、点検結果をエクセルに転記するなどの事務処理が発生していました。この作業は手間がかかり、ミスの原因にもなります。AppSheetで点検表をデジタル化することにより、業務の効率化とミスの防止が期待でき、担当者は点検作業に専念できるようになります。
情報の連携と設備の最新状態の把握
紙の点検表や保守記録の場合、情報が分散するため、設備の最新状態を把握するためには複数の書類を参照する必要がありました。設備点検表アプリなら、クラウド上で情報を一元管理して、設備の最新状態を簡単に把握することができます。また、複数の事業所のデータを連携して、事業所をまたいだ設備の最新状態を横断的に一覧することができます。
点検項目や点検結果の記録の見直し
AppSheetで作成した設備点検表アプリを導入する際には、点検項目の分類方法や名称、点検結果の記録を見直すことが重要です。事業所や設備によって、点検項目の階層や名称、記録の付け方がバラバラになりがちです。それらを統一することにより、点検記録を比較したり、横断的に一覧しやすくなります。
以上、AppSheetを活用することで、設備保全管理の効率化を実現することができます。紙による事務処理のデジタル化、紙の書類で分散していた情報の連携、複数の事業所の情報を横断的に一覧するといった効果が期待できます。また、点検記録を比較したり、横断的に一覧できるように、点検項目や点検結果の記録方法を見直すことも重要です。
- 第1回 特徴、メリット、料金を解説
- 第2回 AppSheetでできること
- 第3回 AppSheet活用事例(1)設備保全管理
- 第4回 AppSheet活用事例(2)問い合わせ管理
- 第5回 AppSheet活用事例(3)QRコードで備品管理
- 第6回 セキュリティとガバナンス